大峰山

　大台ヶ原の時で味を占めたわけではないが、再び夜行バスの登場である。最近は夜行バスにも慣れたのか、コツをつかんだのかよく眠れるようになった。ほとんど考えることもなく夜行バスを使った。時間も前回と全く同じなので、勝ってはよくわかっているつもりである。
　洞川温泉からはしばらく車道を歩く。洞川温泉の観光案内所で聞いたゴロゴロ水で十分水を補給してさらに歩く。大峰大橋の手前にある茶屋でうどんを食べる。関西風でうまい。いよいよここからは女人禁制だ。女人結界門をくぐると鬱蒼とした暗い林だ。しばらく行くと観光客風の中年のおじさんたちが降りてきた。その後、途中何人かの人と出会ったが、やはり女の人はいない。天気はこの年の不順な天候とは打って変わってとても安定した天気だった。運がよい。これといって変化のある道ではないが、所々に見晴らしの良い場所があってその都度小休止する。
　やがて西の覗に着いた。さすがにここから下の眺めは迫力があり、二本の鎖をしっかり持ってほんの少し身を乗り出してみた。おそらく端から見ればかなりぶざまな格好だったに違いない。山上ヶ岳の頂上の手前には数件の宿坊があり、ちょっとした宿銀座風だ。
　まだ時間も早いので、とりあえず頂上を目指す。頂上直下に本山があり、手前の門に注意書きが書いてあった。頂上からはすぐ近くに稲村ヶ岳、遠くに大普賢岳、行者環岳、弥山などがよく見えた。頂上では近くから来た人としばらく話し込んでしまった。その人は暇と天気を見てはしょっちゅう山に登っているとのこと。一緒に写真をとり、住所を教えた。その人にはこちらの職業がすぐにバレてしまった。
　宿は頂上にもっとも近い宿坊に泊まることにした。翌日が楽だからである。宿坊なので当然精進料理である。すべて植物性のものばかりだ。うまくはないが、ありがたく戴く。驚いたのは、こんな頂上近くであるにもかかわらず、風呂に入れるとのこと。ありがたい。ところで、宿坊の人との話で、近いうちには女人禁制も解かれるかもしれないとのこと。どうも女人禁制はお寺側の意向ではなくて、信者たちの意向らしいのである。
　山上ヶ岳からは弥山に向かって縦走する。距離は長いが、それほど難所があるわけでもなく、マイペースで歩く。時期が良かったためか、それほど暑くもなく苦労せずに弥山の小屋に着いた。多くの人は車で行者環トンネル西口まで来て、日帰りで弥山、八経ヶ岳に来るとのこと。こちらは縦走だ。やはり大峰山は縦走してこそ大峰山なのだ。と自分を正当化する。
　この日もやはり時間がまだ少し早いので、弥山と八経ヶ岳に行ってみる。弥山の頂上には社が祀ってある。山の頂上とはかなり雰囲気が違う。八経ヶ岳は頂上は狭いがさすがに近畿の最高峰らしく、東に大台ヶ原を始めとして、そのほか多くの山々が手に取るように見られた。しばらくしてから小屋に戻る。夜になると、呼び出しの電話が入った。誰から？と思ったが、実は前日山上ヶ岳の頂上で会った人からだった。どうも住所をメモした紙を途中でなくしてしまったらしい。電話で再度住所を教えた。写真ができたら送るとのことだ。
　本来は３日目は前鬼の宿坊までの予定で宿坊に予約まで入れておいたのだが、午前中までに前鬼に着けば、最終のバスに間に合う計算がつくので、ダメで元々のつもりでハイペースで歩くことにした。というのも、この日の前鬼の宿坊には団体の予約が入っていてかなり込むとのこと。できればゆったりとしたスペースでのんびりと泊まりたいものだ。というわけもあって、やるだけやってみることにした。八経ヶ岳には前日に来ているので、ほとんど休むほどのこともなく、足早にその場をたった。弥山の小屋から前鬼まで、地図のコースタイムで７時間５０分。かなりきつい。本来山は時間にしばられずに歩いた方がいいのだが、どうも自分の性格のせいか、せっかちに歩いてしまう。他人には「ゆっくり歩いて山を楽しんだ方がいい」などといいながらも自分のことだとそうも行かない。たとえ込んでいる宿でもそれはそれでいいものと割り切ればよいのだが、もっと成長しなければ・・・
　幸い、午前中に着いたので、予約のキャンセルをお願いするが、快く了承してくれた。キャンセル料もとられなかった。ありがたいことだ。時間にゆとりが取れ、少し気持ちにも余裕が出てきた。昼食後、少し山道を歩いた後、長い林道歩きをして前鬼口のバス停に着いた。