飯豊山

　登る前日にバスで川入まで入った。途中からバスの運転士が飯豊山の詳しい説明をしてくれ、川入に近付くと同時ぐらいにちょうど説明が終わった。運転士は毎日やっているようだが、こちらは楽しいひとときを過ごさせてもらった。
　川入の飯豊鉱泉に泊まったが朝６時頃に登り始めると言ったら、「そんなに遅くてはいけない、俺の言うことを聞け。朝は４時半に出なさい。」という宿のオヤジからの忠告で、予定していたよりも早く出発することになった。おまけに登山口まで歩けば30分かかるところを車で送ってくれたため、なおさら早い出発となった。
　この日はラジオを聴きながら歩くことにした。この日は連日続いているアトランタオリンピックの柔道のある日で、ちょうどこの時間に行われていた。おかげであまり山を歩いていること自体はさほどきつくはなく、ラジオに集中していた。男子の中村三兄弟の末っ子の兼三が決勝の残り３秒で相手に警告を与え、判定で見事に金メダルをとった。自分のことのように嬉しかった。
　中十五里で水筒に水をいっぱいまで満たしたため、地蔵山を巻くルートにある水場には寄らず、頂上経由で歩いた。これが幸いした。地蔵山そのものはこれといった展望もなくピークに小さな１体の地蔵があるだけだったが、頂上のすぐ下には水芭蕉が咲いていた。初めて見る水芭蕉の姿が大きく見えた。時季はずれの水芭蕉はやはりこの年の雪の多さによるものだろう。しかしやや大げさかもしれないが、初めて見る水芭蕉にわずかな感動を感じた。
　切合小屋の先には大きな雪渓があり、そこを歩かなければならなかった。今年はとにかく雪が多く、本来ならばそれほどないはずだが、幸いにも斜度は緩く、楽に歩けた。飯豊本山には昼食を含めて55分もいた。ゆったりの計画で歩いている人と長話してしまった。細かく計画性を持って歩くよりはゆとりのある日数を設定して気の向くままに歩く登山もいいものだ。早くこんな山行をしたい。
　この日の宿泊地である御西小屋に荷物をおいて大日岳には空身で往復した。残念ながらガスのため、眺めは良くなかった。
　御西小屋で同宿のプロ野球オリックスのイチローに似た人の話によれば、今年はかなりの量の雪で、花も遅れているとのこと。本来ならば今頃はニッコウキスゲがまっ黄色に山を覆い尽くす頃だという。残念だ。
　御西小屋から北股岳に向かう縦走路は、かなりの残雪で苦労した。アイゼンは持ってこなかったが、あれば付けたいほどだ。おかげで時間も少々多くかかった。
　梶川尾根は相当の急坂で、下るにつれて天気は良くなるし、気温は上がるしで大汗かいてしまった。おまけに休憩したときにズボンの尻を切ってしまい、その後のペースはゆっくりになってしまった。